空蝉
充は息を吐き、



「で、どうしたんだ?」


改めてエミを見た。

エミは肩をすくめ、



「別にどうもしないけど。用がないと来ちゃいけなかった?」

「そんな棘のある言い方すんなよ」


たしなめて、充は立ち上がった。



「何かあったのかと思って心配になっただけだから」


充は、翔が散らかしたテーブルの上を手早く片付けた。

そして煙草を咥え、



「シャワー浴びてくる。戻ったら、どっか飯行こうぜ。何食いたいか考えといて」


ゴミを持って部屋を出た。



自室のある3階から、1階へと降りる。

入れ物だけ大きな自宅だが、中身である家族はとうの昔に壊れてしまっている。


1階のリビングに入ると、母が洗い物をしていた。



「何だ、いたのか」


父は長年、仕事が忙しいとうそぶいては、影で愛人と過ごしていた。

それを知った母も次第に家にいる時間が少なくなり、ストレス解消とばかりにおけいこ事や友人とのランチ会にいそしむようになって。


父の愛人が死んだ今でもそれは変わることがなく、何だかんだで、充も母と顔を合わせるのは、ずいぶんと久しぶりな気がする。



「これ、ゴミ。よろしく」


空き缶の入った袋を置き、充はさっさとリビングを出ようとした。

が、母は充を引き留める。



「ねぇ、まさか、翔が来てたの?」
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