空蝉
シャワーを浴び終えて自室に戻ると、エミは暇潰しとばかりに、本棚に置いておいた充のアルバムを開いていた。
「またそんな昔のもんを引っ張り出して」
「ふふ。だって、おもしろいじゃない」
アルバムの中の写真は、充がまだ10代だった頃のものだ。
派手な金髪の集団の中心で中指を立てて偉そうに写っている、過去の自分。
見返す度に若気の至りという言葉を思い出さずにはいられない。
「すっごい賢かったくせに、高校にも行かずに不良になっちゃって」
「俺もあの頃は多感な反抗期だったんだよ」
「それなのに、いきなり大検取って」
「遊ぶのに飽きたんだよ」
「不良だったのが嘘のように、いきなりいい大学のインテリ学生を気取ってたわよねぇ」
「気取ってねぇよ」
「なのに、卒業したら今度は引きこもりだもの」
エミはまたアルバムの中の若さ溢れる充を眺めながら、「うふふ」と笑った。
父に愛人がいて、しかもそちらに隠し子がふたりもいると知った時には、充もさすがにショックだったし、荒れもした。
翔と初めて会ったのは、そんな頃だった。
翔も翔で悪さばかりしていたらしく、互いに街ではそれなりに有名だったから、名前を知ればあとは早かったように思う。
しかし、会ってみると、不思議と翔を憎む気持ちにはならなかった。
真理にしても、父の愛人にしてもだ。
あたたかくて優しくて、父がそちらの家族を大切に思っていた気持ちもなんとなくわかった。
だから充はやさぐれるのが馬鹿馬鹿しくなり、元々、勉強だけは得意だったため、独学で大検を取って有名大学へと進学したのだ。
翔とは、父や母に内緒でたまに連絡を取ったりしていた。
真理にしても、自分を本当の兄のように思ってくれ、とにかく可愛くて仕方がなかった。
翔の友人であるカイジやヨシキと仲よくなったのもその頃で、とにかく気のいいやつらだった。