空蝉
けれど、真理が死んで、父の愛人が死んで、翔は自暴自棄になった。



街で喧嘩ばかり繰り返し、最終的に警察に捕まった翔を「助けてやってくれ」と父に言ったのは、充だった。


決して家族ではないけれど、でも血が繋がっている弟で、そして時には友達のようだった翔。

死んでもいいという目をしていた翔のことを、充は見ていられなかったのだ。



それ以降、翔はより充を慕うようになった。





「人をニートみたいに言うなよ。自分の食い扶持くらい株で稼いでるんだから、誰にも迷惑掛けてねぇだろ」

「でも、ほとんど家から出ないんだし、引きこもりみたいなものでしょ」

「用があれば出るだろ」


充はエミの手からアルバムを取り上げ、「飯行かねぇのか?」と聞いた。

エミは肩をすくめ、バッグの中から取り出した手鏡で軽くメイクを直し、立ち上がる。


ふたりで部屋を出て、そのまま廊下の突き当たりにあるドアを開けた。


非常階段とでもいいか、そこには鉄製の外階段があって、真っ直ぐ裏の庭まで降りられるようになっている。

どういうつもりで設計してこんなところに階段を作ったのかは知らないが、今となってはこれほど重宝しているものはない。



充にしても、充を訪ねてくる連中にしても、わざわざ玄関からチャイムを押して入らずとも、簡単に出入りできるからだ。



当然、翔もエミも、カイジやヨシキだって、ここから勝手に入ってくる。

充がここに靴を置いておくようになったのは、いつの頃からだったか。


階段を降りて庭に出るとすぐに裏門があり、裏の道路に出られる仕組みだ。



「すぐそこの居酒屋でよくない?」

「俺は別にどこでもいいけど」

「だって、充、歩くの嫌いでしょ?」


俺はそこまでめんどくさがりに見えるのだろうか。

とはいえ、歩くのが好きだとまでは言えない充は、結局、肩をすくめて見せることしかできなかったのだけれど。

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