空蝉


食に興味の薄い充は、エミが注文したものを適当につつく程度だ。

酒は、先ほどまで翔と飲んでいたため、一杯だけでやめておいた。


ウーロン茶を飲んでいた充をまじまじと見たエミは、



「充がアルコール以外のものを飲んでるなんて」

「俺はアル中じゃねぇよ」


だが、エミはそれを受け流して頬杖をつき、



「アル中といえば、ヨシキよ。困ったものよねぇ、あの子。どうにかならないのかしら」


ヨシキは今日もどこかの空の下で、真理のことを想いながら、酒を飲んで泣きながら眠りに落ちるのだろう。

どうにかしてやりたいとは思っても、こればっかりはどうにもならない。



「本人次第だろ、そんなもん。まわりがいくら言ったところで、ヨシキ自身が変わらなきゃ、どうにもならねぇよ」

「それはそうかもしれないけど。でも、このままじゃ、あの子いつか体を壊すわ」

「それで死んでもヨシキにとっては本望なんじゃね?」


充の言葉にエミは肩をすくめる。



「冷たいことを言うのね。充はヨシキが死んでもいいの? 悲しくない?」


悲しいに決まっている。

でも、反面で、そうなった時にやっとヨシキは楽になれるのではないかと思うと、その気持ちを汲んでやりたいとも思ってしまう。



「多分、ヨシキは、死ぬことより生きてることの方が辛いんだろ」


そんな風に言いながらも、充もまた、生きることに意味を見い出せないうちのひとりだ。

だから、たとえ今、死んだとしても、きっと何の後悔もないだろう。


しかし、怒ったのはエミだった。



「私は嫌よ、そんなの。もう誰も死んでもほしくない」


充は何も言葉を返せなかった。

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