空蝉
カイジはふんっと鼻を鳴らし、充に顔を近付けて、



「ちひろと、子供は、死んでも俺が守っていくって決めたんだよ」


その勢いに圧倒された。

その所為で気付くのがひどく遅れた。



「……子供?」


言い慣れない単語に、口が変な形になる。

カイジは煙草を咥えて宙を仰ぎ、



「子供できた。堕ろすって選択肢はねぇだろ?」


衝撃が大きすぎて、言葉も出ない。

頭の中が整理できない。


当然だけど、俺たちは大人で、いつかは当たり前にそういうことになるとは、思ってはいたけれど。



「まぁ、でも、実感ないっしょ?」


カイジは煙を吐き出しながら、苦笑い。



「俺も実際はまだあんま実感ねぇけどさ。でも、そこには確かに新しい命があって、それを消せるわけねぇし、守ってやれるのは俺しかいねぇわけじゃんか」


カイジの言っていることは頭ではわかるが、充にはまるで理解できなかった。



跡取りというだけのために生まれた自分。

それ以上でも以下でもない。


父や、母や、愛人家族を恨む気持ちはないが、でも、自分が愛されていない存在だということは、誰より充はわかっているから。



「いいな、お前。大事にしてやれよ」


俺みたいな子供に育てるなよ。

充は自嘲気味に言った。


カイジは「あぁ」とそれを受け流し、真剣な顔をして、
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