空蝉
「まだ、翔にもヨシキにも言ってねぇの。なんて言えばいいかわかんなくてさ」


力なく肩をすくめて見せるカイジ。



「特にヨシキだよ。あいつ最近、前にも増して、ひどい有り様だし。昨日もうちでぐでんぐでんになってたよ」

「………」

「俺としては、今のマンションを出て、一日も早くちひろと一緒に住むとこ見つけたいんだけどさ。でも、そしたら、俺だけが頼りだったヨシキはどうなる?」

「………」

「ちひろと暮らす。子供ができた。だからもう俺に甘えんな。なんて、言えるわけねぇじゃん」


カイジは顔を覆ってしまった。



確かに、ヨシキが壊れるだろうことは、想像に易い。

けれど、その反面で、ヨシキを甘やかしすぎだとも思う。


ヨシキがひとりで立てなくなったのは、ヨシキ自身の所為だけではない。



「そうは言っても、いつまでも隠しておけることじゃないだろ。チロの腹が大きくなれば、そのうちみんなが知ることになる」

「それはそうだけど」

「つーか、お前はチロと子供のことを最優先に考えてやれよ。ヨシキのことはわかるけど、遅かれ早かれ、こういう日は来るんだから」

「………」

「大体、ヨシキだってガキじゃねぇだろ。成人してるし、自分で稼いでる大人だ。別に友達やめるとかじゃねぇんだから、突き放すことにカイジが罪悪感を感じる必要はない」


言い切った充。

カイジは顎先だけでうなづいた。



「せめて、ヨシキと翔が和解してくりゃあ、いいのかもしれないけど」


それは違う。



ヨシキは翔に許してもらおうなんて、きっと、微塵も思っていないはずだ。

ヨシキは翔への謝罪を続けることのみが生きる理由で、それがわかっているからこそ、翔もヨシキと会おうとしないんだよ。


ふたりが微妙なバランスでいるからこそ、ヨシキは生きているのだから。

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