空蝉
父と、母と、今更家族をやり直したいとも思わない。
でも、だからって、壊れてもいいかと問われると、そうとも言えない。
死ぬことのみを求めるやつがいる一方で、宿った新しい命に未来を求めるやつがいる。
俺はどうなんだろう。
考えたってちっともわからない。
何ひとつ、答えの出ないことばかりだ。
だからこそ、充は、よくも悪くも現状維持のまま。
変わらないで居続けることがいいことだとも思えないが、それでも、最悪な方に転ぶよりはずっとマシだろう。
時が止まることなどありはしないというのに。
それは深夜のことだった。
部屋でひとり、雑誌を読んでいた時のこと、コンコン、とドアをノックする音が聞かれた。
こんな時間に誰だ?
と、思いながらも、充は雑誌を放って立ち上がり、ドアを開けた。
顔をうつむかせたエミが立っていた。
「何だよ、驚かせるなって。仕事終わったのか? つーか、頼むから連絡くらい」
言い掛けて、気付いた。
何だかエミの様子がおかしい。
「……エミ?」
刹那、エミは充に抱き付き、体を震わせる。
肩を上下させながら、エミは声を殺して泣いていた。
「おい、どうした?」