空蝉


ひとしきり泣いたエミを、ベッドに寝かせてやった。


念のため、物置にしている隣の部屋から毛布を引っ張り出してきたのだが、天日干ししていないため、少し臭かった。

「くっせぇ」と充が言うと、エミはそこで初めて泣き笑い顔を見せた。



「でも、あったかい」


かすれた声で言うエミ。

充はエミの、まだ目の淵に残っている涙を拭ってやる。



「お前、ほんと寒いの苦手だもんな。そのくせ、常に足出してるし」


一緒にベッドに寝転び、指先まで冷え切っているエミの手を握った。



「知ってるか? 冷え症も立派な病気なんだぞ」


指が絡む。



どうでもいい話。

本当は、そんなことを言いたいわけではないのだけれど。


それでも聞けずにいたら、見透かしたようなエミに先に牽制された。



「何でもないから」


エミの声は、やっぱりかすれていた。



「何でもないの。だから、泣いたこと、気にしないで」


気にするなという方が無理がある。

とはいえ、「そうか」と返し、充は諦める方を選んだ。


暖房をつけていても、毛布にくるまっていても、手を握ってやっていても、いつまで経ってもエミの手は冷たいままだった。




あの頃、夜ごと、母はすすり泣いていた。

そういえば、母も手の冷たい人だったなと、どうでもいいことを思い出し、だからどうしたのだと思い直して、虚しくなった。


女の涙は苦手だ。

< 97 / 227 >

この作品をシェア

pagetop