空蝉
ひとしきり泣いたエミを、ベッドに寝かせてやった。
念のため、物置にしている隣の部屋から毛布を引っ張り出してきたのだが、天日干ししていないため、少し臭かった。
「くっせぇ」と充が言うと、エミはそこで初めて泣き笑い顔を見せた。
「でも、あったかい」
かすれた声で言うエミ。
充はエミの、まだ目の淵に残っている涙を拭ってやる。
「お前、ほんと寒いの苦手だもんな。そのくせ、常に足出してるし」
一緒にベッドに寝転び、指先まで冷え切っているエミの手を握った。
「知ってるか? 冷え症も立派な病気なんだぞ」
指が絡む。
どうでもいい話。
本当は、そんなことを言いたいわけではないのだけれど。
それでも聞けずにいたら、見透かしたようなエミに先に牽制された。
「何でもないから」
エミの声は、やっぱりかすれていた。
「何でもないの。だから、泣いたこと、気にしないで」
気にするなという方が無理がある。
とはいえ、「そうか」と返し、充は諦める方を選んだ。
暖房をつけていても、毛布にくるまっていても、手を握ってやっていても、いつまで経ってもエミの手は冷たいままだった。
あの頃、夜ごと、母はすすり泣いていた。
そういえば、母も手の冷たい人だったなと、どうでもいいことを思い出し、だからどうしたのだと思い直して、虚しくなった。
女の涙は苦手だ。