十八歳の花嫁

「OKだ。どこでも君の望む場所で結婚式を挙げる」


言うなり、彼は愛実の隣に座る。


「立場上T国ホテルは外せないが、どうせ形だけだ。遊園地に君の弟妹を招いて挙げればいい。もちろん、友人でも親戚でも」

「どうして? どうして、そんなに優しくしてくださるんですか? そんな……わたしなんかに」


愛実は驚き過ぎて言葉が上手く出て来ない。
ただ、食い入るように彼をみつめた。


「それは君が……」


藤臣も同様に愛実をみつめていた。

チャペルの中は静謐(せいひつ)な気配に包まれている。
ここは、偽りではなく真実を、そして真摯に愛を請う姿が最も相応しい場所。

愛実は言葉にできない思いを、懸命に瞳で伝えた。


「君が……必死で家族を守っているからだ。私は母と共に父から捨てられた。その母も死に、父親違いの妹も死んだ。助けてくれる人間は、私にはひとりもいなかったからね。だから、君を助けたい」


愛実はありがたいと思いながらも、落胆を禁じ得ない。


「それ、だけですか?」


彼女のこの質問を、藤臣は別の意味に受け取ったようだ。


「そんなに私が心配かい? ここ数日、私たちは同じ部屋で寝起きしているが、君に身の危険を感じさせたことがあったかな?」

「いえ……それは……」


愛実は心を決めると顔を上げた。


「わたし、あなたと結婚します」


十代の女子高生である自分は、彼にとって子供にすぎない。
でも、あの写真の女性のように美しくなれば、藤臣も振り向いてくれるかもしれない。
結婚を本物にしたいと思ってくれるかも……。

この人の家族になれるように、藤臣に尽くそう。
もし、愛してもらえなくて別れる日が来たら、必要以上のお金はすべて返して出て行こう。

愛実は複雑な思いを胸に、藤臣のすべてを受け入れる覚悟をしたのだった。

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