十八歳の花嫁
第6話 誓約
第6話 誓約
愛実の“イエス”に、藤臣は得体の知れない緊張感を覚えた。
結婚が現実のものとなる。
一生、結婚はしないと思っていた彼にとって、それは恐怖であるはずだった。
なのに、愛実を妻にすると思うだけで、彼の心は浮き立つようだ。
「ありがとう。君のお気に召さないかもしれないが……この指輪をはめてもらえるかな?」
それはティファニーのオーバルダイヤリングだ。三カラットは下らない。ラブホテルで一度は愛実の指にはめられた指輪だった。
「美馬さん、あの、これは……」
「内側を見てくれ」
藤臣は楽しそうな声で愛実に告げる。
彼女は恐る恐るといった様子で指輪を掴むと、プラチナ部分の内側を覗き込んだ。
そこには『Fujiomi to Itsumi』の文字が刻まれている。
「これは、いつの間に彫られたんですか?」
「最初に渡したときにはもう刻んであったんだ。君は気づかなかったが」
その瞬間、愛実は藤臣から大好きなガトーショコラをお土産にもらったときと同じ、蕩けるような笑顔をした。
なんでも買ってやると言い、ショッピング施設を連れ歩いても、愛実は何ひとつ欲しがらない。これが久美子なら、両手に持ち切れないほどの買い物をするはずだ。
いや、藤臣の知っている女はすべてがそうだった。
金を与えれば女は言いなりになる。高額になればなるほど、彼女らは藤臣の奴隷同然だ。
だが愛実の笑顔は金では買えない。
“大好き”という言葉を覚えておいて、買って帰ったわずか数千円のケーキで手に入る至宝――。
「なんだか、本物の婚約みたい。でも、わたしの名前なんて彫ってしまったら……将来、お返ししても、他の人に渡せないんじゃありませんか?」
屈託ない笑顔で、藤臣の心を射抜いた。
そして……次の瞬間には、奈落の底に突き落とす。
愛実の言葉には裏も表もないのだ。
ひたすら家族を思う、無垢で純粋な魂の持ち主。
自分のような穢れた男が、欲望を満たすために触れることなど赦されない。
――彼女の心も身体も、必ず守り抜いてみせる!
祭壇に飾られた十字架に、彼には似つかわしくない誓いを立てる藤臣だった。
愛実の“イエス”に、藤臣は得体の知れない緊張感を覚えた。
結婚が現実のものとなる。
一生、結婚はしないと思っていた彼にとって、それは恐怖であるはずだった。
なのに、愛実を妻にすると思うだけで、彼の心は浮き立つようだ。
「ありがとう。君のお気に召さないかもしれないが……この指輪をはめてもらえるかな?」
それはティファニーのオーバルダイヤリングだ。三カラットは下らない。ラブホテルで一度は愛実の指にはめられた指輪だった。
「美馬さん、あの、これは……」
「内側を見てくれ」
藤臣は楽しそうな声で愛実に告げる。
彼女は恐る恐るといった様子で指輪を掴むと、プラチナ部分の内側を覗き込んだ。
そこには『Fujiomi to Itsumi』の文字が刻まれている。
「これは、いつの間に彫られたんですか?」
「最初に渡したときにはもう刻んであったんだ。君は気づかなかったが」
その瞬間、愛実は藤臣から大好きなガトーショコラをお土産にもらったときと同じ、蕩けるような笑顔をした。
なんでも買ってやると言い、ショッピング施設を連れ歩いても、愛実は何ひとつ欲しがらない。これが久美子なら、両手に持ち切れないほどの買い物をするはずだ。
いや、藤臣の知っている女はすべてがそうだった。
金を与えれば女は言いなりになる。高額になればなるほど、彼女らは藤臣の奴隷同然だ。
だが愛実の笑顔は金では買えない。
“大好き”という言葉を覚えておいて、買って帰ったわずか数千円のケーキで手に入る至宝――。
「なんだか、本物の婚約みたい。でも、わたしの名前なんて彫ってしまったら……将来、お返ししても、他の人に渡せないんじゃありませんか?」
屈託ない笑顔で、藤臣の心を射抜いた。
そして……次の瞬間には、奈落の底に突き落とす。
愛実の言葉には裏も表もないのだ。
ひたすら家族を思う、無垢で純粋な魂の持ち主。
自分のような穢れた男が、欲望を満たすために触れることなど赦されない。
――彼女の心も身体も、必ず守り抜いてみせる!
祭壇に飾られた十字架に、彼には似つかわしくない誓いを立てる藤臣だった。