十八歳の花嫁

「どうした?」


目に入ったのは本社の秘書、奥村由佳(おくむらゆか)だ。

彼女はクローゼットの前に立ち、藤臣のスーツをかけようとしている。昼間という時間にも、秘書という立場にも相応しくない、ホテルの白いバスローブ姿だった。


「あ、いえ、シワになるといけないと思いまして」


由佳は従順そうな目で彼を見上げ、静かに微笑むとそんな言葉を返した。

中流家庭で育ち、世間一般で有名私立と言われる大学を卒業し、美馬の本社に入社した女性だ。
年齢は藤臣よりふたつほど若い。
美馬本社の秘書は総合職採用で、秘書室の男女比は半々。他社に比べれば、男性秘書の比率が高い。そこに配属される女性はトップクラスの成績で入社したと言われている。

事実、由佳はあらゆる意味で優秀な秘書だった。
パートナーが必要な席では隣に座り、申し分ない受け答えをしてくれる。
藤臣が望む時に身体を差し出し、自分からは求めず、結婚も迫らない。

このとき、藤臣は千代田区内のホテルにいた。
彼が年間を通じて契約し、公私ともに利用しているホテルNのスイートルームだ。昨夜は久美子を呼び出し、慌しく抱いたベッドが目の前にある。


「それほど長くいるつもりはない」


シャワーを浴びるのは、いつも女を抱いた後だ。

だが今日は、微かに残る愛実の清潔な香りが、邪な欲望に溺れる藤臣の良心を咎めた。
彼は無言で上着の内ポケットから携帯を取り出し、素早く着信履歴を確認した。

――シャワー中に電話がかかった形跡はない。

そのまま戻すと、


「由佳……来い」


藤臣は彼女の腕を掴み、ベッドに押し倒した。

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