十八歳の花嫁
第8話 激昂
第8話 激昂
『……はい。はい、やっぱりそうですか。わかりました。どうもありがとうございます』
礼を言い、和威は携帯電話を切った。
これまで、身内の調査などしたこともなかった。
だが、昨夜の藤臣の様子がどうしても気になり、彼は懇意にしている大川暁を頼ったのである。
暁は、午前中には藤臣の宿泊先をメールで報告してくれた。しかも女性と一緒に滞在中と書かれ、メールには画像が添付されていたのだ。
その画像に和威は愕然とした。
写っていたのは、間違いなく西園寺愛実本人だったのである。
ふたりは堂々とホテルの内外を歩き、食事やショッピングを楽しんでいる様子だ。
それはどう見ても監禁されている少女の表情には思えない。仲のよい恋人同士の姿に、和威は眩暈を覚えた。
(まさか、藤臣さんが未成年の少女を騙すなんて……)
彼はある意味、藤臣以上にセックスに嫌悪感を抱いている。母親に捨てられたことを、ずっと自分のせいだと思ってきたからだ。
せめて祖母にだけは捨てられまいと、懸命に自分を律してきた。そんな彼が性に目覚めたころ、出生の秘密を知らされたのである。
教えたのは、信一郎や彼の妹・朋美(ともみ)だった。
落ち込む和威に祖母の弥生は、
『千穂子はわたくしにとって恥です。ふしだらな母親のようにならぬよう、そして、どこの馬の骨かわからぬ男の血が目覚めぬよう。和威さん、あなたは自分自身に厳しく生きなければなりません』
もし和威が堕落したときは、美馬家から出て行ってもらう。
弥生はキッパリと言い捨てた。
彼は祖母の言いつけを守り続けた。その結果、女性との付き合いも経験しないまま、この年齢まで来てしまったのだ。
宏志が揶揄したような理由ではないが、セックスの経験がないのも事実である。
藤臣に言った『女性をセックスの対象だけとは思いたくない』という言葉も、自分の血を分けた子供を持つことが怖いのも本当だった。
愛実は和威が出会ったこともない少女だ。
可憐な一輪の花のような少女を、得体の知れない自分のような男が穢すくらいなら……。
同じ私生児とはいえ、藤臣とは能力も自信も違う。信一郎や宏志には任せたくないが、藤臣になら、そう思っていた。
だが、今の電話ではっきりしたのだ。
藤臣はこんな真っ昼間から、本社の秘書をホテルに連れ込んでいるという。
(許せない! 結婚を餌に愛実さんを弄ぶなんて。これじゃ、信一郎さんと変わらないじゃないか!)
藤臣は信頼に値する男ではなかった。
それならいっそ自分が――和威の胸に芽生えた初恋は、彼の自尊心に火をつける。
そして炎は、従兄への対抗心に燃え移った。
『……はい。はい、やっぱりそうですか。わかりました。どうもありがとうございます』
礼を言い、和威は携帯電話を切った。
これまで、身内の調査などしたこともなかった。
だが、昨夜の藤臣の様子がどうしても気になり、彼は懇意にしている大川暁を頼ったのである。
暁は、午前中には藤臣の宿泊先をメールで報告してくれた。しかも女性と一緒に滞在中と書かれ、メールには画像が添付されていたのだ。
その画像に和威は愕然とした。
写っていたのは、間違いなく西園寺愛実本人だったのである。
ふたりは堂々とホテルの内外を歩き、食事やショッピングを楽しんでいる様子だ。
それはどう見ても監禁されている少女の表情には思えない。仲のよい恋人同士の姿に、和威は眩暈を覚えた。
(まさか、藤臣さんが未成年の少女を騙すなんて……)
彼はある意味、藤臣以上にセックスに嫌悪感を抱いている。母親に捨てられたことを、ずっと自分のせいだと思ってきたからだ。
せめて祖母にだけは捨てられまいと、懸命に自分を律してきた。そんな彼が性に目覚めたころ、出生の秘密を知らされたのである。
教えたのは、信一郎や彼の妹・朋美(ともみ)だった。
落ち込む和威に祖母の弥生は、
『千穂子はわたくしにとって恥です。ふしだらな母親のようにならぬよう、そして、どこの馬の骨かわからぬ男の血が目覚めぬよう。和威さん、あなたは自分自身に厳しく生きなければなりません』
もし和威が堕落したときは、美馬家から出て行ってもらう。
弥生はキッパリと言い捨てた。
彼は祖母の言いつけを守り続けた。その結果、女性との付き合いも経験しないまま、この年齢まで来てしまったのだ。
宏志が揶揄したような理由ではないが、セックスの経験がないのも事実である。
藤臣に言った『女性をセックスの対象だけとは思いたくない』という言葉も、自分の血を分けた子供を持つことが怖いのも本当だった。
愛実は和威が出会ったこともない少女だ。
可憐な一輪の花のような少女を、得体の知れない自分のような男が穢すくらいなら……。
同じ私生児とはいえ、藤臣とは能力も自信も違う。信一郎や宏志には任せたくないが、藤臣になら、そう思っていた。
だが、今の電話ではっきりしたのだ。
藤臣はこんな真っ昼間から、本社の秘書をホテルに連れ込んでいるという。
(許せない! 結婚を餌に愛実さんを弄ぶなんて。これじゃ、信一郎さんと変わらないじゃないか!)
藤臣は信頼に値する男ではなかった。
それならいっそ自分が――和威の胸に芽生えた初恋は、彼の自尊心に火をつける。
そして炎は、従兄への対抗心に燃え移った。