十八歳の花嫁
和威は目を細めて、食い入るように愛実をみつめながら言う。
「愛実さん、君は藤臣さんのことを愛しているのかもしれない。でも彼はそんな愛情に値する男じゃないんだ」
「いいえ! そんなことはありません。美馬さんは……いえ、藤臣さんは」
愛実の否定を遮るように、和威はテーブルを叩き立ち上がった。
「君は彼に騙されてるんだ! 藤臣さんは、君が生涯を託せるような人間じゃない。確かに、企業人・経営者としては立派だろう。でも男としては、誠実から真逆の位置にいる人だったんだ!」
和威の激昂ぶりに愛実は目を見張った。
周囲のテーブルから好奇の視線が注がれ、和威は咳払いして慌てて座る。
「誠実から真逆なんて……この間は、幸せになって欲しいって」
ふたりのやり取りを知らない愛実は、和威の変化に付いて行けない。
藤臣に多くの女性がいることは、暁からも聞かされた。
だが、それが事実かどうかはわからない。
香港には間違いなく仕事で行っただけだ、と彼は言った。愛実はその言葉を信じている。
何よりもこの五日間、藤臣は彼女に指一本触れようとはしない。
和威や周囲の人間がどう思おうと、それが真実なのだ。
「和威さんにどう言われても、藤臣さんはこれまで何度もわたしを助けてくださいました。わたしには誠実な方です」
おどおどした様子は消え、愛実は凛として言い返した。
そんな十八歳の少女に押されつつも、和威とてこのまま引っ込むわけにはいかない、とばかり立ち上がる。
「いいだろう! じゃあ、僕と一緒に来てくれ」
「え? あの、どこにですか?」
「藤臣さんの所に、だ。今どこにいるか、誰と何をしているのか、僕は知ってる。さあ、来るんだ! 君に真実を見せてやる!」
和威は声を上げ、再び立ち上がった。