十八歳の花嫁
第5話 取引
第5話 取引
美馬の言葉と態度、そして肩書きに、警察官たちはほうほうのていで引き上げて行く。
彼らに踏み込まれてから二十分足らず、室内は再び、微妙な静寂を取り戻した。
「どう……して? なぜ、わたしのことをご存知なんですか? あなたはいったい」
「美馬藤臣だ。連中に話したとおり、君の婚約者だよ」
人を馬鹿にしたような返答に、愛実は声を荒げた。
「わたしは、あなたのことなんて全然知りません! それを婚約なんて。第一、婚約者に金額を聞いて、それから……ラ、ラブ、ホテルに、連れ込むんですか?」
精いっぱいの理屈で返すが、美馬は余裕の笑みを浮かべたままだ。
そして彼が口にした理由は、愛実には全く心当たりのないものだった。
「私の祖母と、君の祖父の間で約束していたそうだ。遠い将来、歳の釣り合う孫ができたら、結婚させようってね」
ほんの一ヶ月前、彼の祖母・美馬弥生は夫を亡くした。
弥生には結婚を約束しながら、相手の親に反対され、引き離された恋人がいた。それが愛実の祖父・西園寺亘(わたる)だという。
泣く泣く別れた恋人との約束――夫の手前、弥生は長らく忘れて暮らしていた。だが、美馬家は弥生の生家。
婿養子の夫には商才があり、財産を増やしてはくれたが……。
彼女は不実な夫の死後、若かりし日の願いを叶えようと思い立った。
「私が知ったのもつい最近だ。こんな場所に君を連れ込んだのは……この三日間、自分の挙動を思い出してみたらどうかな?」
その言葉に、愛実は一瞬で真っ赤になる。
美馬は彼女の素性を知ったうえで、様子を窺っていたのだ。そしてすべてを見られていた。三夜も逡巡し、金のために男を物色して、ついには美馬を相手に身体を売ろうとしたことを。
それを考えると、八つ当たりを承知で言わずにはいられない。
「わかりました。その降って湧いたような婚約話を、破談にする理由が欲しかったんですね。だったら、そうおっしゃってくれたらよかったんです! 何もこんな……罠に嵌めるような真似をなさらなくても」
「君から断わる?」
「ええ、もちろんです」
愛実は胸を張って言う。
だが、美馬はいじわるそうに失笑すると、
「それは無理だな。君には断われない」
きっぱりと断定したのである。
美馬の言葉と態度、そして肩書きに、警察官たちはほうほうのていで引き上げて行く。
彼らに踏み込まれてから二十分足らず、室内は再び、微妙な静寂を取り戻した。
「どう……して? なぜ、わたしのことをご存知なんですか? あなたはいったい」
「美馬藤臣だ。連中に話したとおり、君の婚約者だよ」
人を馬鹿にしたような返答に、愛実は声を荒げた。
「わたしは、あなたのことなんて全然知りません! それを婚約なんて。第一、婚約者に金額を聞いて、それから……ラ、ラブ、ホテルに、連れ込むんですか?」
精いっぱいの理屈で返すが、美馬は余裕の笑みを浮かべたままだ。
そして彼が口にした理由は、愛実には全く心当たりのないものだった。
「私の祖母と、君の祖父の間で約束していたそうだ。遠い将来、歳の釣り合う孫ができたら、結婚させようってね」
ほんの一ヶ月前、彼の祖母・美馬弥生は夫を亡くした。
弥生には結婚を約束しながら、相手の親に反対され、引き離された恋人がいた。それが愛実の祖父・西園寺亘(わたる)だという。
泣く泣く別れた恋人との約束――夫の手前、弥生は長らく忘れて暮らしていた。だが、美馬家は弥生の生家。
婿養子の夫には商才があり、財産を増やしてはくれたが……。
彼女は不実な夫の死後、若かりし日の願いを叶えようと思い立った。
「私が知ったのもつい最近だ。こんな場所に君を連れ込んだのは……この三日間、自分の挙動を思い出してみたらどうかな?」
その言葉に、愛実は一瞬で真っ赤になる。
美馬は彼女の素性を知ったうえで、様子を窺っていたのだ。そしてすべてを見られていた。三夜も逡巡し、金のために男を物色して、ついには美馬を相手に身体を売ろうとしたことを。
それを考えると、八つ当たりを承知で言わずにはいられない。
「わかりました。その降って湧いたような婚約話を、破談にする理由が欲しかったんですね。だったら、そうおっしゃってくれたらよかったんです! 何もこんな……罠に嵌めるような真似をなさらなくても」
「君から断わる?」
「ええ、もちろんです」
愛実は胸を張って言う。
だが、美馬はいじわるそうに失笑すると、
「それは無理だな。君には断われない」
きっぱりと断定したのである。