十八歳の花嫁
☆ ☆ ☆
そこは皇居にほど近い一流ホテルだった。
和威はフロントに「美馬です」と声をかけ、当然のように奥に進んで行く。
本館の十五階までエレベーターで上がり、高級感漂うフロアでふたりは降りた。十代の少女にはいささか不似合いで、愛実は落ちつきなく周囲を見回す。
「大丈夫だから。こっちだよ、おいで」
少し時間が経ったことで、和威も愛実に対する気遣いを取り戻したらしい。
苛立つ仕草も、腕を引くような真似もせず、紳士的にエスコートしてくれた。
そして重厚な扉の前に立ち、呼び出し用のインターホンを押す。
一分も待っただろうか、インターホンから『はい。どちら様でしょうか?』と女性の声が聞こえた。
「美馬和威です。藤臣さんに緊急の用があって来ました。入れてください」
それから十秒ほどでノブの辺りからカチリと音がした。
扉が開き、姿を見せたのは二十代の女性。
肩までの髪を片方だけ耳にかけ、青磁色のスーツを着ていた。彼女の少し吊り上がった目尻と薄い唇が、グレーに近い青のスーツと相まって愛実は冷たい印象を受ける。
「まあ、お久しぶりですわね、和威さん。緊急なんて、大奥様の御用でしょうか?」
眼鏡を押し上げながら笑顔を見せるが……。
彼女の声を直接聞いた途端、愛実はドキッとした。
(ひょっとして、美馬さんの携帯電話に出た人?)
「どいてくれよ、奥村さん。話は藤臣さんにする。……さあ、入って」
愛実は戸惑いながらも和威に急かされ室内に足を踏み入れた。