十八歳の花嫁
「お待ちになってください、和威さん! 美馬専務に叱られます。私がご案内いたしますから」
背後で先ほどの女性――由佳が叫ぶ。
だが、和威は気にも留めていないようだ。
「藤臣さん! いるんだろう、早く出て来てくれ!」
和威は大声で藤臣の名を呼びつつ、ひとつ目のドアを開ける。
そこは広めのリビングだった。
愛実たちが泊まっているホテルのアンティーク調の内装とは違い、シンプルなインテリアで纏めてある。
実用的な大きなソファとテーブルが置かれ、隅のデスクにはノートパソコンが開いてあった。
「和威さん。こんなことなさって、失礼じゃありませんかっ!?」
「うるさいな! 君は引っ込んでいてくれ!」
引き止めようとする由佳を怒鳴りつけ、和威がリビングの奥にあるドアを開けようとしたとき――。
「和威!? いったい何を騒いでいるんだ!」
一寸早くドアのノブが回り、姿を見せたのは藤臣だった。
彼の姿は……たった今、シャワーから出たばかりといった風情だ。
上半身は裸で、腰にはバスタオルを巻いている。髪は濡れて……明らかに情事の後を思わせた。
愛実は藤臣の姿に、驚きと羞恥心で目を逸らす。
「なんの真似だ、和威。なぜ、愛実をこんな場所に連れて来た」
それは怒りと動揺がない交ぜになった、彼らしくない声だった。
よほど見られたくなかったのだろうか。
来なければよかった、と愛実は思った。何も知らなければ、未来に夢だけ見ていられた。でも知ってしまえば……。
「これでわかっただろう、愛実さん。彼女は藤臣さんの秘書で愛人なんだ。君とホテルで過ごしながら、こうやって秘書とも……。彼は君が愛するのに相応しい男じゃない。目を覚ますんだ!」