十八歳の花嫁
「そう、言われても、わたしには」
混乱した頭で必死に言葉を探すが、何をどう判断していいのかもわからない。
愛実はこの場所から走って逃げ出したい気分だ。
「和威さん。こちらは美馬専務のお部屋です。こんな不法侵入のようなことをなさって。いくら、お身内でも度が過ぎますわ」
由佳は警備員を呼びかねない口調で和威を責める。
だが、それに受け答える和威も辛辣だ。
「君は黙っててくれ。上司と、それも勤務中に関係を持つような女性と、対等に話す気にはなれない」
和威が愛実に向ける目と、由佳に向ける視線はまるで温度が違った。
一方、由佳も肩書きのない和威のことは、頭から見下した態度である。
「何をおっしゃいますの? 私は専務秘書です。オフィス代わりのこちらに、同行していても不自然ではないと思いますけど。愛人だなんて、セクハラで訴えてもよろしいのよ」
「ここをオフィスや接待に使うときは、第一秘書の瀬崎さんを同行すると聞いている。女性を連れ込むのは……奥の寝室を使うときだけだって、藤臣さん本人から聞いたことだ! そうでしたよね?」
和威は藤臣に話を振るが、彼はひと言も返さない。
腕を組み、目を閉じたままだ。
「そ、そういうことにお使いになるのかもしれませんわねっ! でも、それが私だとお聞きになったの? 何か証拠でもあるのかしらっ」
由佳の反論に和威も口を引き結ぶ。
藤臣が答えなければ、和威としてもこれ以上責めようがないのだ。
由佳もそれがわかっているのだろう。
「ところで、そちらのお嬢さんは何方かしら? 部外者をこちらにお通しするわけには行きませんのよ。おふたりとも、すぐに出て行ってくださいな!」
由佳の刺す様なまなざしが愛実に向けられた。その激しさに「すみません。すぐに失礼しますので」愛実は慌てて頭を下げるが――。
「その必要はない。彼女は私の婚約者だ」
冷静さを取り戻した藤臣の声がリビングに響き渡った。