十八歳の花嫁
その様子を立ったまま冷ややかにみつめていたのが由佳だった。
由佳は唐突に口を挟み、
「では、そちらのお嬢様を寝室にご案内してはどうでしょう? ベッドが未使用で、ゴミ箱の中に使用済みの物がなければ、ご納得いただけるのでは?」
彼女は極めて挑戦的で、強張った笑みを愛実に向けた。
それは見られても平気だからではなく、まるで見せ付けて愛実を打ちのめしたいかのような艶笑だ。
愛実だけでなく、きっかけを作った和威も息を呑む。
「それは未婚女性が人前で口にすべきことじゃない。奥村くん、君は秘書としての節度を忘れたようだな」
この中で、一番窮地にあるはずの藤臣が、最も攻撃的に由佳を睨んでいた。
そして、
「愛実、君が決めればいい。誰の言葉を信じるか……その上で、寝室を確認したいと言うなら、喜んで案内しよう」
藤臣は、何も後ろ暗いことはない、とばかりに言いきった。
いくら恋愛経験のない愛実でも、由佳の表情から寝室の状態くらいは想像がつく。
だが藤臣は、子供にはわからないと思っているのか、あるいは、知られても大したことではないのだろう。
万が一、愛実が不満を口にすれば、最初に出会ったときの彼女の行為を突きつければいいのだから。
「美馬さんは、こちらでお仕事をされてたんですよね?」
「ああ、そうだ。シャワーを浴びたのでさっきはあんな格好だったが……それだけだ」
和威は口の中で「白々しい」と吐き捨てるように言っている。
だが、愛実は違った。
「わかりました。私は美馬さんを信じます」
愛実には、彼の自由を縛るロープはない。
愛されて結婚を望まれたわけではないのだから。愛実は心の片隅で芽生えた嫉妬に気づかないふりをして、静かに微笑み返したのだった。