十八歳の花嫁

「そうか……わかった。……ありがとう」


これまでと何かが違う藤臣の笑顔だった。

優しく、暖かな、それでいてどこか寂しそうなまなざしに、愛実は目が離せなくなる。

彼は和威に向き直ると、


「これでわかっただろう。和威、これからは私の婚約者とふたりきりで会うのはやめてくれ」

「まだ……正式に婚約したわけじゃない。おばあ様が……」

「弥生様は関係ない。言ったはずだ。おまえの目的が愛実でなく財産なら、相当額を私が支払おう」

「そうじゃない! 僕は」


ここに愛実がいて、すべて承知の上で彼女自身が選んだことだった。これ以上和威が口を挟めば、それこそ金目当てに見えるだろう。

口を噤む従弟を尻目に、藤臣はシャツの第一ボタンを留める。
すると、彼の傍にスッと由佳が歩み寄り、床に膝をつくと、あろうことかネクタイに手をかけた。

藤臣の首にかかったネクタイは、今朝、愛実が結んだものだ。『結婚後は毎朝頼む』そんなふうに言われ、震える指で一生懸命整えたのを覚えている。

それは由佳の手によって外され、彼女はきっと、愛実より上手に結ぶのだろう。
結婚してもずっと、綺麗に結び直されたネクタイを見なきゃならない。それは恋する愛実の胸に、拷問のように感じた。


(やっぱり、来なければよかった。わたし、こんな所で何をしてるのかしら……)


手慣れた様子でネクタイに触れる由佳の手首を、藤臣が押さえた。

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