十八歳の花嫁
「君はいい。愛実、結んでくれないか?」
そう言うと、藤臣は身体を愛実に向ける。
由佳は無理やり笑顔を作りながら、
「専務、今は勤務中ですので、私がお世話させて……」
「いいと言ってるんだ。これからは勤務中でも、君の世話になることはないだろう。ここでの君の仕事は終わった。本社に戻りたまえ」
これ以上はない拒絶に、由佳は言葉を失った。
「愛実、今朝教えただろう?」
「あの……でも、時間がかかるし。まだ、綺麗には結べないし」
「私が手を貸そう」
藤臣は愛実の手を取り、強引にネクタイを掴ませた。
仕方なく顔を上げると、由佳がもの凄い目でこちらを睨んでいる。一瞬だけ視線が絡み、直後、彼女はフイッと背を向けた。
愛実の高校はブレザーにネクタイ着用の制服、結び方はもちろん覚えている。
だが他人の……それも男性の首に結ぶのは、恥ずかしさもあってもたついてしまう。しかも時折、藤臣の指が愛実の指と重なり、それを由佳や和威が見ているのだ。
愛実は手の平にびっしりと汗を掻いていた。
そのとき、フッと頭の中によぎった。――朝、婚約者の結んだネクタイを、昼間、愛人に解かせ、それをまた婚約者に結ばせようとしている。
(わたしが本当の婚約者なら、このまま首を締めちゃうかも……)
そう思うと可笑しくて、愛実は張り詰めた糸がぷつりと切れたように、クスクス笑い始めてしまう。