十八歳の花嫁
この男が、東部デパートの社長であることは警察が確認した。と、なれば、愛実の祖父の話は本当なのかもしれない。
だが祖父は十年も前に亡くなっている。
今となっては真実など知りようもないのだ。
現代においても、恋愛を模した見合い結婚が主流の上流階級は存在する。おそらく美馬家もその中に属するのだろう。
かつては西園寺の家もそうだった。でも今は……。
愛実はどう言って説明すればわかってもらえるのか、懸命に考えるが答えは見つからない。
そして、先に口を開いたのは美馬のほうでだった。
「どうやら、誤解があるようだ。確かに、黙って様子を窺っていたのは申し訳ない。しかし君は人待ち顔で駅前に立っていた。てっきりデートだと思ったんだ。君にそういった男性がいるなら、祖母に報告して考え直してもらおうと思った」
その言葉が真実なら、愛実は最低の姿を見せたことになる。
思ったとおり美馬は、
「だが、君が待っていたのは……処女を十万で買ってくれる男だった」
愛実はスッと顔を上げる。
「それ以上おっしゃらなくても充分です。あなたのおばあ様にも、そうお伝えください。わたしはこれで、帰らせていただき……」
「お父上が事業で借金を残したまま亡くなったそうだな。金のかかる家族を抱えて、明日の夜も同じ場所に立つつもりか?」
「そんなこと……あなたに答える義務はないと思います」
「助けてやった恩を忘れたのか? 私の機転がなければ、今ごろ君は警察の取調室だ」
「あなたも同罪じゃないですか!?」
愛実の問いに、美馬は事もなげに首を振った。
「婚約者となるはずの女性に、売春行為をやめさせようと説得していた。と言えばどうなると思う? それだけじゃない。十分以内に弁護士が到着して、私は釈放される。そのとき、君はどうするんだ? 弁護士どころか、身元引受人で来てくれる親もいないんじゃないか?」
愛実にはつらい質問だった。
母はおそらく来ないだろう。誰のために、娘がここまで身を堕としたか……わかるような人ではない。