十八歳の花嫁
☆ ☆ ☆
「ご婚約、おめでとうございます。予め教えていただければ、もっと適確な対応ができたのですが……」
本社に戻る車中で、由佳は皮肉めいた言葉を口にした。
さすがの藤臣も勤務中の移動にはハイヤーを使う。
ふたり並んで後部座席に座るが、密談には適さない。運転手には丸聞こえなので迂闊なことは言えないのだ。
「今日、彼女が訪ねて来る予定はなかった。この次はもう少し、礼儀正しく応対してくれ」
取引先の希望で、急遽会議に同席することになった。
藤臣はその資料に目を通しながら、どうでもよさそうな口調で返す。
そんな男の態度に、女の嫉妬が秘書の領分を超えたようだ。
「随分お若いお嬢様に見えましたが」
「都立高校の三年生で十八歳だ」
驚きの余り、由佳は目を剥いた。
「そんな、若い方とご婚約なんて。専務の趣味からは考えられませんわ。それに、和威さんも随分ご執心のようでしたけれど……大奥様がどうとかおっしゃられて……」
由佳は弥生の企みなど知らない。
元々、会社のことには口を出さない弥生とは接点がないのだ。美馬家主催のパーティに弥生が出席したときだけ、本社の重役秘書として挨拶をするくらいである。
「彼女は弥生様と……それなりに縁がある。和威の嫁に、と考えていたらしい。今は格式だけになっているが、旧伯爵家のご令嬢だからな」