十八歳の花嫁
☆ ☆ ☆
藤臣が女性との関係に冷酷なのは、実の父である一志の影響だけではない。
彼が七歳のころ、母は横浜のスナックでバーテンをしていた年下の男と結婚した。
借金をしては藤臣の母に押し付け、酷い暮らしを余儀なくされた。子供心にも「なぜあんな男と」と思ったものだ。
今となれば、入籍から半年後に妹の忍(しのぶ)が誕生したので理由は明白だろう。
義理の父は藤臣の前でも構わず、母にセックスを強要していた。
無論、当時の彼にはわかるはずもない。だが、つらそうな母を見るたび、自分が生まれて来たせいだと思い続けていた。
それから二年も経たず、立て続けに母と妹が亡くなり……。
藤臣が初めて女を知ったのは中学に上がった十二歳のときだ。
相手は彼より二十も年上の施設の女性職員だった。
標準より体格がよく、早熟だった彼に女性職員は性的虐待を繰り返した。逆らえば食事を抜かれ、風呂にさえ入れてもらえない。
義務教育を終了し、施設から出られる日を彼は待ち侘びた。
その直前、藤臣に美馬家との養子縁組が舞い込んだ。
彼は母親から美馬に対する恨み言を聞いて育った。だが、早く逃げ出したい一心で、藤臣は一志の申し出を受け入れたのだった。
ところが、そんな彼を女性職員は罠に嵌めたのである。
養子縁組が成立した直後、彼女は『藤臣にレイプされ妊娠した』と言い、美馬家に慰謝料を要求したのだった。
一志から、関係は事実かと問われたら……否定できるはずがない。
三年近くに及ぶ自堕落なセックスは、十五歳の少年を貶めるに充分だった。自制心など培う土壌もなく、求められるまま快楽に耽る日々を過ごした。
だが、レイプは事実じゃない。
善良で品行方正な三十代の女性職員と、生意気な孤児の言い分だ。
藤臣の言葉は取り上げてすらもらえず。美馬家の人間は一斉に彼の不行状を罵り、世界中に味方はひとりもいなかった。
信じます、と愛実は言った。
もし十五年前、たったひとりでも信じてくれる人間がいたなら。
レイプなどしてない、中学生の自分を襲ったのは彼女だ、と……その言葉を信じてくれる誰かがいたら、彼の人生は違ったものになっていただろう。
同時に、平然と嘘を吐く自分の姿が、あの女性職員と重なり――藤臣は唾棄すべき自らを知る。