十八歳の花嫁
誠実でない、金目当ての女を選び、愛を求めなかったのは彼自身である、と。
藤臣は自分を臆病な野良猫だと思った。
爪を立て、牙を剥き、毛を逆立てて威嚇する。
もちろん、それには理由がある。どんなに優しそうな人間でも、近づくなり彼を殴るか利用したせいだ。
もう一度、愛情を求めて裏切られたら、今度こそ息の根を止められるだろう。
彼は戸惑っていた。
愛実の差し出す手は、彼が深層で追い求めた甘美な誘惑だ。
欲しくて堪らないものを、彼女は藤臣の前にちらつかせている。
(罠ではない、と……誰か証明してくれ!)
無意識で伸ばした指が、愛実の頬に触れ……
柔らかく瑞々しい肌に囚われた瞬間――藤臣は我に返る。
愛実の大きな瞳がさらに大きく見開かれ、食い入るように彼をみつめていた。
心臓の鼓動が徐々に大きくなる。まるで新幹線が猛スピードで近づき、彼の全身を駆け抜けたような感覚だ。
そのまま顔を寄せて、唇を重ねれば……。
直後、藤臣は弾かれたように立ち上がった。
「頬の傷も目立たなくなったようだ。週末には弥生様に報告して、君のお母さんの了解を取りに行こう。正式な婚約者となれば、誰も手出しはできない。今から用意すれば……六月辺りには」
衝動をごまかすために、思いつくままを口にした。
「ジューンブライドなんて、素敵ですね」
次の瞬間、愛実の周囲に色鮮やかな花が咲き乱れ――。
藤臣の“誓い”は、試練の場に引きずり出されることとなる。