十八歳の花嫁
旦那様とは先代の社長、一志のことだろう。
藤臣の話では、随分可愛がられ、後継者に指名されたと言っていたが……。
愛実の疑問は弥生が口にしてくれた。
「何をおっしゃるの? 夫の遺産はほとんど持って行ったではありませんか。六月の総会で、あなたが新社長に就任するのは間違いないでしょう」
「これでも三十にもならない若輩者ですから……大奥様の後押しをいただければありがたいのですが」
言葉の内容とは逆で、藤臣は自信たっぷりの言い方だった。
弥生もそれが癪に障ったようだ。
口をへの字に結び、杖を手に席を立ち上がった。
「結婚を機に、わたくしも後継者に支持する、と発表すればよろしいのでしょう。関連会社や取引先も胸を撫で下ろすことでしょう。やはり独身主義は、会社のトップにはそぐわない主義ですからね」
背中を向けたまま言い捨て、弥生はリビングを後にしたのだった。
シンとした空気がリビングの中を漂う。
結婚の報告とは思えないほど殺伐とした雰囲気だった。
後継者問題に終始していたように思うのは気のせいだろうか?
弥生を見送るとき、愛実は立ち上がり頭を下げた。
だが、女主人は自分が引きずり込んだ花嫁に対する気遣いも、祝いの言葉すらなかったのである。