十八歳の花嫁
一週間が過ぎ――
愛実はその日、美馬邸で開かれるパーティに招かれたのだった。
母も一緒に来たがったが、弥生の『正式な婚約披露パーティではないので、保護者は不要です』というひと言に却下された。
母は『母親の許しがないと結婚できないのをわかってらっしゃるのかしら!?』そんな不満を愛実にぶつけてくる。
愛実自身、美馬家の親族が集う席にたったひとりは不安で堪らない。
多少問題のある母でも、一緒にいてくれたほうが心強いのは確かだろう。
しかも直前になり、藤臣から迎えに行けないのでハイヤーを回したと告げられ……。
愛実は彼に贈られたパーティドレスを着て、これ以上ないほどの緊張に包まれたのだった。
「あなたが西園寺愛実さんかしら?」
立食形式のパーティフロアに足を踏み入れるなり、神経質そうな中年女性が愛実のもとに近寄った。
年齢のわりに背が高く、きつい視線で愛実を見下ろす。その目元が信一郎とそっくりで、愛実はすぐにこの女性が弥生の長女、加奈子だとわかった。
愛実が気を取り直し、「はじめまして……」と挨拶しようとしたときだ。
「最近の女子高生は恐ろしいこと。お金のためなら、見ず知らずの男と結婚しようだなんて。あなたもこの家にお住みになるのね。間違っても、うちの息子たちを誘惑しないでね。お母様がどんな気紛れを起こされようとも、正当な跡継ぎは信一郎さんなんですから! おわかり!?」
加奈子の大きめの声に周囲の人間が一斉に振り返る。
今回は親戚のみで招待客は五十人もいないという。
だが、およそ加奈子と歳の変わらぬ人たちばかりだ。
愛実は到着するなり、メイド姿の若い女性にパーティ会場である大広間に通された。
藤臣を呼んで欲しいと頼んだが、フロアにおられるのでお探しくださいと、にべもなく突き放される。
仕方なく自分で探そうとした途端、加奈子に頭ごなしに怒鳴られ……。
周りの視線はある者は冷ややかで、またある者は嘲笑に満ちていた。
愛実は、立派な鯉の泳ぐ池に放り込まれた、小さな金魚の気分だ。頭から食べられてしまいそうで、初めて履いたヒールの足元が震える。
「加奈子さん、それ以上私の婚約者に暴言を吐くようなら、こちらにも考えがありますよ」
いきなり肩を掴まれ、藤臣の声が頭上から響いた。