十八歳の花嫁

「父親と言えば、あの刑務所に入った男かしら? ああ、あれは義理の父親だったわね。身持ちの悪い母親を持って、あなたも大変ねぇ」

「ええ、実の父は幸運にも刑務所に入る前に亡くなりました。そう言えば――信一郎さんが酷い怪我をされたとか。妙なことに巻き込まれて警察沙汰にならないように気をつけてください。会社のイメージを損ねますので」


一瞬で加奈子の顔色が変わった。

信一郎も一歩間違えば刑務所行きだと、藤臣の言葉の真意を悟ったらしい。

加奈子は「余計なお世話だわ!」ヒステリックに叫ぶと藤臣の前から立ち去った。

藤臣はあらためて愛実に目をやる。


「遅くなって悪かった。玄関で待ってるように言ったんだが、使用人に上手く伝わらなかったようだ」

「いいえ……びっくりしましたけど。でも、美馬さんが来てくださるって思ってました」


愛実の笑顔はどうしてこうも温かいのだろう。
肩を抱いたまま、そのまなざしに吸い込まれそうになる。


「あ、あの、美馬さん、肩が……その」

「ああ、すまない。でも“美馬さん”はやめてくれ。ここでは、ほぼ全員がそうなる」

「では“藤臣さん”でいいですか?」


ただ名前を呼ばれただけだ。
たったそれだけで反応しそうになる自分が信じられない。

今日の愛実は薔薇色のドレスを着ていた。
胸元をしっかりと覆った、フロント部分のシャーリングがエレガントなデザインだ。
膝丈のスカートはシフォンでボリュームを持たせている。上から真っ白のボレロを羽織り、露出した肩を見せないようになっていた。
同色の靴とバッグ、一粒ダイヤのイヤリングとネックレス――すべて藤臣が選んだものだった。
髪は少しアップにして、垂らした毛先をカールさせている。
いつもの自然なスタイルより、幾分大人びて見える。

藤臣は、薔薇の花を象った髪飾りも用意すればよかった、と考えていた。

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