十八歳の花嫁

彼はわざと愛実の肩を抱いたまま、ドリンクの置かれたテーブル付近まで移動した。


「彼女は、我が子が一番、というタイプなんだ。信一郎は学生時代から色々問題を起こしていた。でも、信一郎に責任はない、と言って聞かなくてね。その結果、宏志も同じようになってしまった」


加奈子について説明しながら、愛実にオレンジジュースを取って手渡す。


「じゃ、あんな風に言われたのは……わたしが信一郎さんを選ばなかったから?」


藤臣の手が肩から外され、愛実はホッとしたように口を開いた。


「そんなところかな。だが、夫の信二といい、子供たち三人もまともな性格じゃない。足を引っかけた後、そっちが当たって来たから怪我をした、と難癖つけてくるタイプだな」


吐き捨てるように言った後、藤臣はジンジャーエールを手に取り、口に含んだ。

すると、予想外にも愛実は楽しそうに笑い始めた。


「私は何か面白いことを言ったかな?」

「だって、美馬さ……藤臣さんがやられっ放しになってるとは思えなくて。どうせ怪我をさせたって言われるんなら、最初から足を踏んづけてやれって感じだもの」


あまりの図星に藤臣も可笑しくなり、声を立てて笑った。

和威はじっと耐えるかストレートに殴り返すタイプだが、藤臣は違う。
盗みの犯人にされそうになったときは事前の察知し、逆に信一郎を罠に嵌めてやったくらいだ。


「君くらいだよ。私にそんなはっきりと言う人間は」

「どうして?」

「私が怖いらしい」


一志から認められるため、可能な限り感情を殺して生きてきた。
それなりに卑怯な手段で他人の足を引っ張ってきただろう。ここ数年、真っ向から藤臣に意見する人間は、瀬崎ひとりだった。


「最初は……わたしも怖かったけど。でも、今は……」

「今は?」


もう一度、愛実の肩を抱き寄せ、耳元で『今はどう思ってるんだい』と尋ねたら?

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