十八歳の花嫁
藤臣の中にそんな想像が駆け巡ったとき、
「藤臣さん、いい加減私たちにも紹介してくれないかしら?」
ふたりの背後から声をかけたのは、弥生の三女で養母・佐和子だった。
長女の加奈子とは十歳も歳が離れており、まだ四十七歳。藤臣の母親と呼ぶには気の毒なほど若い。
一志は藤臣を引き取るとき、将来に備えて美馬姓を名乗らせようとした。だが、認知だけは弥生が認めようとせず……。
結果、不妊が発覚し離婚された佐和子に婿養子を取り、藤臣を養子とさせたのだ。
「はじめまして、藤臣さんの義理の母です。若いお嫁さんで嬉しいわ。年上のお嫁さんを連れてきたらどうしようかと思っていたのよ」
佐和子はおっとりした性格で、美馬家の中で唯一強欲から外れた人間かもしれない。
積極的に藤臣を可愛がることはしなかったが、特別に苛めることもせず。なんでも父親である一志の命令に従う、藤臣の目には主体性のない女性だった。
「こんにちは。あなたのことは暁から聞いてます。藤臣くんは義理だが出来のいい息子でね。難点と言えば、独身主義という点だけだった。だが、あなたに会ってあっさり返上したようだ」
見るからに仲のよい夫婦と言った感じで、佐和子に寄り添っているのが美馬弘明である。
藤臣にとってふたり目の義理の父だ。
好人物に見えるが、藤臣はその裏にあるものを知っていた。
弘明は金と地位を得るため、佐和子との結婚を承諾。その証拠に結婚当初から愛人を囲っている。
相手に子供をふたりも産ませ、週の半分はそちらに帰るという二重生活を送っていた。
「西園寺愛実です。何もわかりませんが、どうかよろしくお願いいたします」
おそらくはふたりの笑顔を額面どおりに受け取っているのだろう。
丁寧にお辞儀をする愛実を、このまま攫って隠してしまいたくなる藤臣だった。