十八歳の花嫁
朋美はそのまま暁に支えられ、ふらつきながらフロアを歩いて行ってしまった。
「ごめんなさいね、愛実さん。お嫁に行った先で苦労しているんだと思って、大目に見てやってくださいな」
呆気に取られて朋美の背中を見送る愛実に、佐和子が声をかけた。
「いえ……。うちが貧乏なのは皆さんが知ってることですから。今回、藤臣さんや大奥様に助けていただいて、本当に感謝しております」
なんでもないことのように、愛実はサラッと言う。
逆に、藤臣のほうが息苦しくなり、
「子供を飢えさせないのは親の責任だ。家が貧しいからといって、君が恥じることはない。それに……俺が欲しいのは感謝じゃない」
ふっくらとした頬がドレスと同じ鮮やかな薔薇色に染まった。
藤臣を見上げる瞳が、見る間に色彩を帯び……ジッとみつめていると、まるで万華鏡を覗き込んだ気分になる。
オレンジジュースに濡れた唇がゆっくりと開き、甘い声音を響かせた。
「藤臣……さん。あの、腰に……その。こんなところで」
ハッと顔を上げたとき、あんぐりと口を開けた佐和子や弘明が目の前に立っていた。
藤臣は自分でも気づかぬうちに、愛実の腰に手を回して、なんと腕の中に引き寄せていたのだ。
「こ、この分なら、孫の顔もすぐに見れそうね」
佐和子夫婦は引き攣った笑顔を作りながら、藤臣たちから離れて行ったのだった。