十八歳の花嫁
肩を抱き寄せられたときも、腰に手を添えられたときも、心臓が跳ね回っていたが本当は嬉しかった。
愛実は懸命に藤臣の好む女性になろうとしたが……。気の利いた台詞のひとつも思い浮かばない。
考えなしに子供じみた返答をしてしまい、ふと気づけば彼は離れていた。
(どうすれば、藤臣さんの気持ちを惹き付けられるの?)
愛実はただ恋する男性の姿を目で追い続け――それは突然だった。
「そんな目はやめるんだ!」
厳しい口調で藤臣は愛実を諌め……。
「あ、いや、悪い。意味もなく男をジッと見るもんじゃないよ。子供の君にはわからないのかもしれないが……」
「ごめん、なさい」
藤臣をみつめることが礼儀に外れたことだとは思わず、しかも“子供”と言われたことで愛実の心は瞬時に萎縮する。
すると、藤臣は焦った様子で言い訳を口にし始めた。
「暁さんなんかもそうだ。彼は頭が切れるし、冷酷な男だよ。この家の人間はすべて額面どおりじゃない。私以外は決して信用するな。とくに男は年齢問わず、絶対に気を許さないでくれ」
その鬼気迫る様子に、愛実は一層青褪めた。
「ああ、その、だから……怖がらせるつもりはないんだ。ただ、私以外には無闇に微笑みかけないほうがいい」
「じゃあ、藤臣さんになら気を許してもいいんですね。よかった」
愛実がそう言って笑うと、藤臣も呆れたように、それでいて嬉しそうに微笑んだ。
「あの……お義母様は藤臣さんの笑顔を見て驚いていらっしゃいましたけど?」
佐和子の言葉は意外だった。
愛実の知る藤臣は意地悪な笑い方もするが、信一郎の件以降、朗らかなときが多い。
愛実にも細やかな心遣いをしてくれ、彼に愛されたらどれほど幸せだろう、と思ってしまう。
だが、藤臣の答えはとんでもないものだった。