十八歳の花嫁
ホテル滞在中に藤臣から聞かされた。
信一郎には充分に注意を払うよう、藤臣の出張中は瀬崎が信一郎の動向を見張っていたという。
それが、肝心なときにうっかり見失ったというのだ。
モーテルの特定が少しでも遅れていたら、取り返しのつかないことになっていた。
愛実はそんな風に聞いている。
「いえ、瀬崎さんのせいじゃありませんから。それに……藤臣さんが助けに来てくださったので」
口にしながら愛実は恥ずかしくなる。
あのとき、藤臣のすぐ後に瀬崎も飛び込んで来たはずだ。
そうなると、当然、胸を見られてしまったかもしれない。だが、『見ましたか?』と聞くのも躊躇われて、愛実は何となく居心地が悪くなってしまう。
「あの……ちょっと、失礼します」
「ああ、いえ、私もお供いたします。社長命令ですから」
「それは困ります!」
愛実が声を上げると、瀬崎はきょとんとした目をした。
「あの、化粧室なので……外で待たれるのもちょっと。ドアのすぐ外ですよね? 大丈夫です。すぐに戻ってきますから」
愛実は瀬崎を押し止めると、慣れないヒールで転ばないように、気持ちだけは小走りに化粧室に向かった。
大きなお邸らしく、化粧室は紳士用と婦人用に分かれていた。
愛実が婦人用の扉を押そうとしたとき、
「申し訳ありません。愛実様は二階の家族用をご使用いただけますか?」
背後からメイド姿の女性に声をかけられた。
その女性には見覚えがある。
藤臣を呼んで欲しいという頼みを断ったメイドだった。