十八歳の花嫁
だが、彼は結婚までにすべての女性と手を切ると言ってくれた。
たとえ本物の結婚じゃなくても、愛実が嫌だと答えたら、そう約束してくれたのだ。
「あら、申し訳ありません。愛実様こそ、お可哀想に。一回りも年上の男性なんて、お若い愛実様から見ればオジサンになりますかしら?」
千里の言葉に、
「案内はもういいです! 後はひとりで行けますから」
愛実はキッパリ言うと千里を追い越し、さっさと二階の廊下を歩き始めた。
「藤臣様がベッドを買い換えられたのよ。これまでのベッドは私の部屋に運ぶんですって。コレがどういう意味か、お嬢ちゃんにわかる?」
これまでの慇懃無礼な言葉遣いをやめ、千里は本性を出したように話しかける。
愛実は振り返るとキッと睨みつけ、「全然わかりません!」と答えた。
「藤臣様のお世話はコレまでどおり私がするわ。お嬢ちゃんはいい子で若奥様を演じてちょうだい。ああ、心配しないで、妻の座は狙ってませんから。子供は産みたくないし、面倒は嫌いなの」
千里は好き放題言って階段をとんとん下りて行った。
愛実は決して低いほうではない。一六〇に少し足りないくらいだ。
そんな彼女より十センチは高く、バストのカップはツーサイズ、いや、スリーサイズ上だろう。
そして、勤務中だというのにキツイ香水の匂いをさせていた。ジバンシーの“オルガンザ”でないのが、せめても救いか。
(藤臣さんたら、絶対に趣味が悪いっ! 秘書の奥村さんのほうが……もうっ! いったい何人いるの!?)
モデルの女性が“オルガンザ”の女性だろうか?
ひょっとしたら、もっとたくさんいるのかもしれない。
だが、それも仕方ないことだと思う。藤臣ほどの素敵な男性である。たまに意地悪になるけれど、とても優しくて親切だ。
時折見せる寂しそうな瞳が、愛実のような若い女性ですら、母性本能をくすぐられる。
千里の言ったようにベッドの上でのことを知ったら、もっと離れられなくなるのだろう。
肩を落として歩いていたら廊下の突き当たりに化粧室のマークを見つけた。
そこが家族用に違いないと見当をつけ、愛実は中に入った。