十八歳の花嫁
「わかっています。ですが、暁さんを使って和威をけしかけるのはやめてください。あなたも旦那様も、暁さんを駒のように考えておいでだが、今の和威に御しきれる男ではありません」
藤臣の言葉に弥生は片笑みを浮かべた。
「あらまあ、相変わらず和威さんの味方なのね。でも、和威さんはどうかしら……。愛実さんは母親によく似ていると言うではないの。中々の女性のようですし、あなたも手玉に取られないように気をつけなさい」
藤臣は黙って席を立ち、一礼して弥生の私室を後にした。
洋館の母屋と渡り廊下で繋がった弥生専用の別館がある。
母屋と同じように洋風の建築だが少し古い。弥生が生まれたときに建てられたという。後に妹とふたりで暮らし、戦火も免れた。
母屋のほうは、結婚後に一志がかなり手を入れたらしい。
渡り廊下の途中で立ち止まり、藤臣は煙草に火を点けた。
庭の緑が多いせいか、都内のわりに空気が清々しい。そこに白い煙を吐き捨てることに、なぜか罪悪感を覚える。
パーティ会場は禁煙だ。最近では都内の至る場所が禁煙になっている。いい加減やめようと思いつつ、ついつい吸ってしまう。
(女を抱いてないせいか? だがこれまでも、一ヶ月や二ヶ月は平気だったはずだ)
一見するとライターのような携帯用灰皿に煙草を押し付け、放り込んだ。
ベストと同じシルバーグレイのネクタイを整え、藤臣が会場に足を向けたときのこと。
廊下を一目散に走って来る人間がいる。
「――社長!」
それが瀬崎であることに、藤臣は驚いた。
これほど慌てるようなことは……最近で言えば、信一郎の車を見失ったときくらいだ。
「瀬崎、愛実はどうした!?」
「それが、化粧室に行かれたままお戻りになられないんです。女性用を確認させてもらったんですが、どこにもいらっしゃらなくて」
藤臣の全身から血の気が引いた。