十八歳の花嫁
「社長、やはりどうあっても彼女と? 大奥様を止めることはできないのでしょうか?」
「俺でなきゃ、他の誰かがやるだけだ」
「しかし、あの大奥様に“若かりしころに叶わぬ恋の成就”などとは……とても」
瀬崎は、信用できない、と声に出しては言わなかった。
無論、美馬も弥生を信じてはいない。
彼が愛実に話した言葉は嘘ではなかった。しかし、真実からは程遠いものだろう。
誰にも弥生の本心などわかろうはずがない。
「どちらにしても、猶予は一日二日だろう。すぐに俺が嗅ぎ付けたことは知られる。その前に、あの娘を手に入れておきたい。抱くのが早いと思ったが……」
――どれだけお金を積まれても、心までは売れません!
(面白い。ならば、売る気になるまで積むだけだ)
「瀬崎、今夜中に片をつける。彼女のアパートに車を回せ」
「……はい」
ウインカーの音がやけに耳につく。
十八歳の少女を、およそまともではない計画に巻き込もうとしている。
そんな美馬に対する抗議のようだ。
静かに目を閉じ、聞こえぬフリをする美馬だった。