十八歳の花嫁
「何、エラそうなこと言ってるんだ!? 兄さんとラブホテルに行って、藤臣ともヤリまくってるくせにっ! おまえ、最低の女だな。……二度とそんな口きけなくしてやる」
宏志は逆切れしたかのように愛実を罵り始めた。
そのまま、彼女を個室に押し込もうとしてふたりは揉み合う。
愛実は信一郎とのことを言われ驚いていた。
彼女にとって不名誉な噂になりかねないので、藤臣が事情を知る関係者に箝口令を敷いたと聞いている。
それが宏志の耳に入ったということは、信一郎自身が弟に告げたのだろうか。
「触らないで! 大声出しますよっ!」
「出してみなよ。この家は無駄に広いんだ。この辺りは僕と和威の私室があるくらいでさ……今日は和威、いないんだよねぇ。こんなトコまでだぁれも来ないよ」
舌なめずりでもするように、卑猥な顔で宏志はじりじりと近づいてくる。
こんな所は兄弟そっくりじゃない、と愛実の心に浮かんだ。
そのとき、ドクンと大きく心臓が跳ね上がった。
愛実の脳裏に信一郎に襲われたときのことが次々と流れてくる。
殴られた頬の痛みを思い出し、宏志を突き飛ばして逃げなきゃ、と思うのに近づくのが怖くなった。
そして、最悪なことに個室の方に後退してしまう。
当然、すぐに背中が壁に当たり……。
(どうして? 今日は婚約発表なのに。どうしてこんな目にばかり遭うの?)
「藤臣には黙っておいてやるよ。その代わり、結婚したら時々僕の部屋に来て楽しませてよ。財産争いや会社経営には興味ないんだよねぇ」
宏志の足が個室に踏み込んだ。
「宮前も悪い女だよなぁ。ま、愛人が正妻を罠に嵌めるなんて、よくあることか」
ようやく、愛実も気がついた。
千里にわざと二階の化粧室に連れて来られたのだ、と。
だが、そのときには眼前に宏志の顔が迫り、腐臭のする吐息に愛実は顔を背け――。