十八歳の花嫁
念のため、と古参のメイドに金を掴ませ、宏志を見張らせていたのが正解だった。
何か携帯ゲーム機らしきものを抱え、化粧室に行ったと聞き駆けつけたのだ。まさか盗撮用の小型カメラまで用意していたとは思わなかったが……。
「どうして……どうして、皆こんなに酷いんですか? 宏志さんだけじゃなくて、パーティフロアでもそうだし、それに、宮前ってメイドさんも」
愛実の声が震え、それはすぐに泣き声に変わった。
藤臣は千里の名前を言われたことに、ドキッとする。誘惑に乗って数回関係しただけで、愛人の頭数にすら入らない女だ。
無論、千里本人がどう思っているかはわからないが。
藤臣はソッと手を伸ばし、愛実の肩を抱いて慰めようとした。
ところが、彼女のほうから藤臣の懐に飛び込んで来たのだ。
「愛実……悪かった。まさか、宮前まで絡むとは思わなかったんだ。だが、会場から出るなと言ったはずだぞ」
「宮前さんが、二階の家族用を使うように、って」
経緯とベッド云々の話を聞いたとき、藤臣は思わず頭を抱えた。
愛実のほうは、言葉にするうちに嘆きが怒りに替わった様だ。
「別に全然構わないんですけど……でも、だったら結婚の誓いを守るとか、そんな格好のいいことを言わないで欲しかったです」
愛実の声音に嫉妬の色が滲んでいる。
やはり、愛実の気持ちは自分に向いているのだ、と思い、彼は嬉しさがこみ上げて来た。
しかし当の愛実は、そんな藤臣の様子に不満を覚えたらしい。
「わたし、何がおかしいことを言いましたか?」
「あ、いや……失礼。ベッドは新しくする予定だ。そのときは使用中の物は業者に引き取ってもらう。それと、過去のことは勘弁して欲しい。約束はちゃんと守るよ。私は……結婚はしないつもりだったが、結婚に対する理想はある。不実な真似は絶対にしない。だから、君には信じて欲しいんだ。頼む、愛実」
彼は愛実の目を真っ直ぐにみつめて言った。
そのとき、自分がどれほど彼女の信頼を欲しているかわかったのだ。それは、子供が親に縋るような目だったと思う。
愛実も食い入るようにみつめ返して、「もちろん……信じてます」とひと言口にした。
心が吸い取られて行くのを感じる。
少しだけ涙の残った瞳が、余計に藤臣を惹きつけた。
それは心だけではなく、しだいに身体も……そして唇も近づき――。