十八歳の花嫁
コツコツと重みのある音がタイルに響く。
男性用に向かって、しばらくして戻って来た。
洗面台のほうは絨毯が敷かれているため足音は聞こえないが、後は手を洗って出て行くだろう。
……と思ったときだった。
再び化粧室の扉が開き、
「あ、やっぱり、こんな所にいたのね。探したんだから、暁」
それは、朋美の声だった。
☆ ☆ ☆
「オイオイ、酔ってるんだろう? 休んでたほうがいい」
暁は口に咥えたハンカチで手を拭きながら、鏡に映る朋美に向かって言った。
朋美はお世辞にも、次期病院長夫人というお堅いイメージからは程遠く見える。
セクシーな黒のドレスはだらしなく着崩れしており、アップにした髪もあちこちがほつれていた。
だが、パーティ会場で酔って騒いでいたときに比べれば、かなりしっかりした足取りだ。
「ここなら誰も来ないでしょ」
言うなり、暁の背後から首に腕を回す。
暁は少し頬を歪めるが、「……しょうのないヤツだな」振り返り、朋美の腰に手を添え、口づけた。
化粧室の中に唇の重なる音と、布地越しに互いの身体を弄るが響き渡る。
「おじい様が死んでから一度も会ってないのよ。どうして誘ってくれないのよぉ」
唇が離れると朋美の口から愚痴がこぼれた。