十八歳の花嫁

ドアを開けたのは暁だった。

ふたりの情事はすぐに終わったらしく、そこにいたのは彼だけである。
身支度を整え、化粧室から出ようとしたとき、奥の個室から妙な気配を感じたという。

何気なくノブを回した途端、まるで自動ドアのような勢いで扉が開き――彼は慌てて後ろに飛び退いたのだった。


「キャッ!」

「うわっ!」


それはまさに不意打ちだった。

丸っきり支えるものがなくなり、無防備に後ろに転がる。
藤臣にすれば、愛実を庇おうと抱きしめるのが精いっぱいだった。


「……痛っつ」


思い切り尻餅を付いた上、強かに背中を打つ。
まだ頭を打たなかっただけ立派と言うべきかもしれない。


一方、開けたほうの暁も唖然呆然だ。


「これはこれは……先客がいたわけか……参ったな」


確かに、他に言い様はないだろう。

とはいえ、不倫の現場をまともに聞かれたのだ。
それを苦笑いで済ませる辺り、藤臣の予想どおり、肝の据わった男だった。


「……やあ、暁さん。できればノックくらいして欲しかったな」


人工大理石のタイルの上に座りこんだまま、藤臣も必死に余裕を見せる。

だが、そんな藤臣を見たのは初めてだったらしく、暁は笑いを堪えた様子で言葉を返した。

< 159 / 380 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop