十八歳の花嫁
ドアを開けたのは暁だった。
ふたりの情事はすぐに終わったらしく、そこにいたのは彼だけである。
身支度を整え、化粧室から出ようとしたとき、奥の個室から妙な気配を感じたという。
何気なくノブを回した途端、まるで自動ドアのような勢いで扉が開き――彼は慌てて後ろに飛び退いたのだった。
「キャッ!」
「うわっ!」
それはまさに不意打ちだった。
丸っきり支えるものがなくなり、無防備に後ろに転がる。
藤臣にすれば、愛実を庇おうと抱きしめるのが精いっぱいだった。
「……痛っつ」
思い切り尻餅を付いた上、強かに背中を打つ。
まだ頭を打たなかっただけ立派と言うべきかもしれない。
一方、開けたほうの暁も唖然呆然だ。
「これはこれは……先客がいたわけか……参ったな」
確かに、他に言い様はないだろう。
とはいえ、不倫の現場をまともに聞かれたのだ。
それを苦笑いで済ませる辺り、藤臣の予想どおり、肝の据わった男だった。
「……やあ、暁さん。できればノックくらいして欲しかったな」
人工大理石のタイルの上に座りこんだまま、藤臣も必死に余裕を見せる。
だが、そんな藤臣を見たのは初めてだったらしく、暁は笑いを堪えた様子で言葉を返した。