十八歳の花嫁

第10話 期待

第10話 期待





「あの……あの、藤臣さん。手を……」


掴まれた手が火傷しそうなほど熱い。

何もかもがこれまでの経験とはかけ離れており、愛実の心は混乱を極めていた。
藤臣にもどんな顔で話しかけていいのかわからず、彼の顔を見るのも恥ずかしい。


「あ、ああ、すまない」

「いえ……」


ふたりは階段の下で立ち止まり、互いに沈黙したまま時間だけが過ぎて行く。

こういったことに慣れているはずの藤臣から、何か言ってくれると愛実は期待した。だが、彼も棒立ちで、息をするのも忘れているかのようだ。


「あ、の……化粧室に行って来てもいいですか?」


愛実は千里に止められた一階の化粧室を指さし、藤臣に告げた。



鏡に映る自分の顔を見たとき……なかなか胸の鼓動が静まらず、何度か深呼吸を繰り返した。


“キス”してしまったのだ。それも“藤臣”と。


常識的に考えれば、婚約者なのだから当然のことかもしれない。
だが、愛実の身は安全だと言っていた、あの約束はどうなるのだろう?

キスを求めたのは愛実からだった気がする。

実を言えば、あの前後のことはよく覚えていないのだ。
宏志の行動があまりにショックで……個室を撮影されていたということに動揺して、助けてくれた藤臣に当たってしまった。
それには千里の言葉も影響していただろう。
彼女は藤臣との深い関係を示唆して、結婚後もそれを続けると宣言した。宣戦布告されたようで、愛実も珍しくカッとなる。

結婚するのは、藤臣の花嫁は愛実なのに……。

しかし彼にとって、十八歳の花嫁は『対象外』。

少しずつ、チクチクと胸を刺してきた痛みがふいに大きくなり、愛実は我慢できなくなった。

< 162 / 380 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop