十八歳の花嫁
――君には信じて欲しいんだ。頼む、愛実。
藤臣の切ない声が今も耳の奥で響いている。
彼になら、何をされてもいいと思えた。
藤臣に信じて欲しいと言われたら、それこそ、何があっても信じるつもりだ。
ジッと目を見ていたら吸い込まれるようになって……あのとき、キスされるのだ、と思った。
愛実が目を閉じかけたとき、誰かが化粧室に入って来たのである。
その先に繰り広げられた暁と朋美の行為は……思い出すだけで、愛実は酷くイケナイことをしてしまった気持ちになる。
この場合、過ちを犯しているのはあのふたりなのだ。
何といっても朋美は人妻、彼女は夫を裏切り、暁と浮気をしていたのだから。
音だけでは未経験の愛実には想像できない部分もある。
だが、未熟な官能を目覚めさせるには“朋美の声”だけでも充分だった。
『藤臣さん……好きです』
(ああっもう、わたしは何てことを言ってしまったの!?)
愛実は間近で行われている大人の行為に触発され、藤臣に抱きついていた。
胸がざわめき、全身の細胞が彼を求めて……気づいたときには、思いを告白していたのだ。
藤臣は驚いたように目を見開き、その二秒後――ふたりの唇は重なっていた。
初めてのキスなのに、背中に電気が走ったような不思議な感覚だった。
舌を……押し込まれたときはさすがに怖くなったが、それでも藤臣を突き飛ばすことなどできるはずがない。
愛実は鏡の中の自分をまじまじとみつめた。
頬がピンク色に上気していて、瞳も潤んだままである。
そっと両手を頬に添え……左右の小指で唇に触れた。
いつの間に暁たちの行為が終わり、朋美が化粧室を出て行ったのかもわからない。
それほどまで夢中になって、彼の唇を受け止めていた。
もし、暁が扉を開けなければ、藤臣はどこまで愛実を求めてくれただろう。
そこまで考え、愛実の心臓はトクンと高鳴った。
(告白してキスされたってことは……藤臣さんもわたしのことを?)
にわかに浮上した可能性に、鏡の中の愛実は相好が崩れた。
彼女は左手のエンゲージリングをそっと包み込むように撫でる。
(これって……本物の結婚になるの? ずっと藤臣さんの傍にいられるかもしれない)
愛実は心から、結婚式が待ち遠しいと思うのだった。