十八歳の花嫁
執事は彼の顔を見るなり気まずそうに視線を逸らす。
しかし弘明のほうは、苦笑しつつ藤臣の前までやって来た。
弘明は胸ポケットから白いハンカチを取り出し、藤臣に向かって差し出した。
「珍しいな、君がそんなところを見せるなんて。まあ、愛実さんの口紅と同じ色だから、問題はないんだがね」
藤臣はハッとして口元を押さえた。
「なるほど、皆が顔を背けて笑うはずだ。……ちょっと失礼します」
藤臣は出て来た愛実を弘明に任せ、入れ替わるように紳士用に駆け込んだ。
鏡に映る自分の間抜けさに、笑うしかない。
セックスは排泄と変わりないがキスは違う。そのせいか唇を重ねることに抵抗を感じ、何年もして来なかった。当然、口紅のことなど考えたこともない。
あれは素晴らしく甘い、身も心も蕩けそうな“キス”だった。
愛実も決して嫌がってはいなかったように思う。それも当たり前かもしれない。なぜなら、愛実は『藤臣が好き』なのだから……。
抱き締めた彼女の身体も、熱く高ぶっていた。
もっと、もっと味わってみたい。
もっと強く深く、何度も、何度でも、愛実と唇を……いや、身体を重ねてみたかった。
だがそれは、『好き』という気持ちにつけ込むことになる。
藤臣が狂おしいほど渇望しているのは、ただの色欲だ。
愛実をセックスの対象に見ているにすぎない。
どうやら藤臣の中には、制服姿の少女に対する歪んだ欲望があったようだ。新雪を踏み荒らし、我が物にしたいという汚い欲望が――。
(このままじゃ、遠からず愛実に本性を知られる……もし、そうなったら)
藤臣が頭を冷やしパーティフロアに戻ったとき、そこは異様なムードに包まれていた。