十八歳の花嫁

「僕の部屋は近いからねぇ。すっごい女のヨガリ声が廊下まで丸聞こえだったなぁ。確か……愛実さんの少し後に、暁さんが入って行ったのは見たけどね」


千里と宏志はグルなのだ。

そもそも愛実を二階に連れて上がったのも、このふたりの企みである。
仮に暁が化粧室に入る所を見たのだとしても、宏志は藤臣が中にいたことを知っているはずだった。


(まさか……暁さんと朋美さんも?)


朋美はともかく、暁までもが彼らと組んでいるとは思いたくない。
だが、藤臣は暁を『冷酷な男』と言っていた。
それを考えれば、愛実はいったい誰を信じ、誰に警戒すればいいのだろう?

困惑する彼女に追い討ちをかけるように、


「あら、暁さんはホント、面倒な相手に手を出すのがお好きだから……ねぇ、弘明さん」


嫌みたっぷりに、加奈子は弘明に声をかける。

弘明は加奈子が苦手らしい。
彼女の参戦に、愛実を庇う言葉が出て来なくなった。


この加奈子の台詞に、愛実は加奈子だけでなく弘明も、暁と朋美の関係を知っているのだ、と気がついた。
思えば、初対面の朋美の態度は普通では考え難いものだ。
暁にしなだれかかり甘える姿は、まるで夫婦か恋人同士に見えた。

この加奈子の言う“面倒な相手”とは間違いなく朋美のことなのだ。

宏志や加奈子の加勢に気をよくしたのか、千里は更に声を上げる。


「それだけじゃありません。ゴミ箱にティッシュが捨ててありました。詳しく言わなくてもおわかりでしょうけど、持って来てお見せしてもいいんですよ。愛実さんのハンカチは、そのゴミ箱の横に落ちてたんですから。私……藤臣様がお気の毒で」


千里はわざとらしく口元を押さえた。

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