十八歳の花嫁
「それは……どういう意味なの? 藤臣さん」
険を含んだ加奈子とは対照的に、答える藤臣は至って柔らかな口調だ。
「彼女に上の階を案内していたんです。ついでに二階の化粧室に寄って……詳細はご容赦ください。暁さんは主役が引き籠もるなと、探しに来てくれただけですよ。まあ、彼には少々、恥ずかしい所を見せてしまいましたが」
藤臣は照れ笑いを浮かべつつ、愛実の横に立ち、当たり前のように腰を引き寄せた。
ふたりの間に親密な空気が流れる。それは男女の関係を匂わせるのに充分なもので……千里の勘違いで話は落ちついたのだった。
「あの、藤臣さん、ありがとうございます」
(やっぱり、来てくれた!)
愛実の心は浮き立っていた。
他の誰が信じられなくても、藤臣だけ信じて待っていればいい。
彼は愛実のヒーローなのだ。
白馬に乗った王子様のように、飛んできて愛実を助けてくれる。
恋に浮かれる彼女は嬉しさのあまり、自分から藤臣に寄り添った。
直後、さり気ない動作で藤臣は愛実から離れたのだ。
「宏志の阿呆はもう逃げやがったな……。宮前の件はちゃんとしておく。二度とこんなことはない」
藤臣は舌打ちして辺りを見回しながら言う。
ズキンとした胸の痛みを感じつつ、愛実も周りに目をやった。
場違いな普段着姿の宏志はどこにもいない。藤臣の登場に大慌てで逃げ出したようだ。千里すらその辺にはいなかった。
そして後日……愛実が美馬邸を訪れたとき、藤臣の逆鱗に触れた千里の姿は美馬邸から綺麗さっぱり消えていたのだった。