十八歳の花嫁
「ああ、それはよかった。だが、誰とでもしないでくれよ。朋美のような真似をされたら、私の恥になるから困る」
「……わかってます。お話がそれだけなら……おやすみなさい」
愛実はサッと頭を下げ、藤臣に背中を向けた。
背後で運転席のドアが閉まり、続けてエンジン音が聞こえた。あっという間に車は走り去る。
辺りは水を打ったように静まり返った。
温かかった心が氷水に浸されたように冷たくなって行く。
立っているのもつらくなり、愛実は門のすぐ内側に座り込み、声を殺して泣いた。
――愛してる。本当の結婚にしないか?
そんな風に言われるとばかり思い込んでいた。
だが、この結婚は取り引きなのだ。愛実の一家が救われて、藤臣にとっても都合がよかっただけのことなのに。
あのキスには、特別な意味は何もなかった。
弘明の言葉にも気をよくして、愛実が勝手に浮かれていただけである。
(もう絶対、勘違いしない。藤臣さんが好きって態度は取らない。もう……これ以上、好きにならない)
初めてのキスと失恋は、愛実の心を頑ななまでに藤臣から引き離した。
今度は正式な婚約パーティがある。
そして、準備が整いしだい結婚式が待ち構えているのだ。
それは愛実が初めて好きになった彼と……でも、決して振り向いてはくれない男性と。
薄いボレロ越しに、春の夜風が肌に染み込んで行く。
心も身体も、愛実は凍えそうに寒かった。