十八歳の花嫁
久美子は完全に、今度のパーティにも藤臣のパートナーとして出席するつもりらしい。
確かに、これまで大きなパーティには久美子を伴うことが多かった。マスコミの目を引き、記事にするための手段だ。お手軽に宣伝効果が得られる、といったところか。
だが今回は、愛実のお披露目がメインのパーティだ。
久美子に出番などない。
「いや――」
藤臣は煙草を取り出すと火を点け、短く希望を伝える。
だが、久美子は納得できなかったようだ。
「それってどういうこと? まさか、年増の秘書と出る気じゃないでしょうね。あんな色気のない女をエスコートするつもり? そんなの笑い者になっちゃうわ。秘書には秘書の仕事だけさせてりゃいいのよ。あたしと一緒でなきゃ、マスコミだって集まって来ないわよ」
大仰な手振りで、久美子は二歳しか変わらない由佳を年増呼ばわりした。
藤臣にはよくわからないが、この久美子は由佳に妙な対抗心を持っているらしい。
由佳のほうも同じようだが、利口な彼女はそれを表には出さない。
藤臣はテーブルに置かれた陶器の灰皿に煙草の火を押し付けた。
久美子の言葉を無視するように、ソファから立ち上がる。
「ねえ、何とか言ってよ、藤臣さん。東部デパート主催のパーティは、パートナーはあたしって決まってたじゃない! あたしがデパートのイメージモデルなのよっ! ねぇったら!」
面倒な話は早く済ませるに限る。
藤臣は久美子が外しかけたネクタイを両手で締め直した。ブラックスーツにタイはシルバーのままだが、さすがにベストは脱いでいる。
「パーティの席で、婚約を発表する」
一瞬、なんのことかわからなかったらしい。
久美子はポカンと口を開けたまま、呆然と藤臣を見上げていた。
しかし、見る見るうちに彼女の顔は上気して、両手で頬を押さえたのだった。