十八歳の花嫁

第2話 悪党

第2話 悪党





久美子は驚き、声を失った。


『この間も急に呼び出されたのよ。なんだかセックスの雰囲気も変わってきたし、いよいよあの男もあたしから離れられなくなったってことかしら?』


ほんの数十分前、この部屋のソファで男と戯れながら口にした言葉だ。

藤臣が来る直前に慌てて追い出した。若い男との浮気がバレて怒鳴り込んで来たのか、とビクビクしていたが、どうやら違うらしい。

そして藤臣が口にした言葉――

それは彼女の脳内で、

『パーティの席で、私たちの婚約を発表する』

に都合よく変換されていた。


「ねえ、待って、ちょっと待って。いきなり、そんなこと言われても……あたしにも心の準備が」


藤臣は久美子の身体に夢中なのだ。
だからこそ、周囲から『公私混同』『女の言いなり』と噂されても、久美子をイメージモデルに抜擢してくれた。

このマンションもそうだ。
名義は藤臣のままだが、久美子の好きに使っている。海外出張にも彼女を同伴し、少しねだればブランド品も買いたい放題。
そんな様子が写真週刊誌に掲載され、久美子は『御曹子の意中の恋人』『未来の社長夫人』と書かれたが、彼は一切否定しなかった。


(とうとうあたしのモノになったんだわ!)


このときの久美子には、怪訝そうに見下ろす藤臣の視線など気づくはずもなく……。


「準備?」

「ええ、そうよ。だって、あなた結婚はしないって……だから、あたしもずっとそう思ってきたんだもの」

< 179 / 380 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop