十八歳の花嫁
少し間を空けて藤臣は、
「こっちにも都合があってね。事情が変わったんだ。不満なのか?」
そんなふうに尋ねて来た。
「まさか!? イエスよ。もちろん、イエスだわ。ああ、夢見たい! 大丈夫よ、ちゃんとわかってるから。すべて、あなたの都合に合わせるわ」
婚約発表なら記者会見もあるかもしれない。
日本で一、二を争う財閥の御曹司に見初められて、億万長者の花嫁になる……久美子は夢のような出来事に酔っていた。
「それで、ひとつだけ確認しておきたいんだけど……。あの秘書はどうするの? ええ、もちろん、あなたの好きにしてくれていいのよ。あたしは何人愛人がいても平気だわ。でも……」
ふいに、藤臣の相好が崩れた。
それは意外な笑顔だったが、久美子は気にも留めず、彼の返事を待つ。
「ああ、なるほど。いや、私は結婚の誓いは守るつもりだ。――すべての愛人と手を切る」
久美子は顔を輝かせた。
(やったわ! あたしの勝ちよ!)
心の中でガッツポーズをする。
藤臣の愛人兼秘書である奥村由佳は、有名私立大学を卒業していた。
一方、久美子は高卒だ。そのため、ニューヨーク・パリ・ロンドンなど会議を伴う海外出張には一度も連れて行ってもらったことがない。
久美子を連れ回すのは、主に視察やレセプションに招待されたときだけである。
初めてデパートの仕事で顔を合わせたとき、『英語も話せないなんて』そう言って鼻で笑われたことは、今でもしっかり覚えている。
でも、これからは違う。
由佳は久美子に対して、『奥様』と頭を下げる立場なのだ。久美子は今夜ほど彼女に会いたいと思ったことはなかった。