十八歳の花嫁
久美子が『社長夫人』と口にしたとき、藤臣は舌打ちした。
聞いてしまった以上、きっちりと言わなければならないからだ。
(それにしても……いい加減、気づきそうなものだが)
藤臣はため息をつき、あらためて久美子に告げた。
「久美子、君は人の話を聞いてないのか? 私は今度のパーティで婚約を発表し、来月にはT国ホテルで挙式披露宴が決まった、と言ってるんだが」
「そんな、来月なんて早過ぎるわ! ウエディングドレスだってすぐには……レンタルなんてあたしはイヤよ! 第一、恥を掻くのはあなたよ」
「すまないが、私の挙式披露宴に君を招く予定はない。六月の挙式は花嫁も納得していることだ。ドレスの心配まで君がする必要はないよ。――そういうことだ。私の都合に合わせてくれて感謝する」
藤臣は心にもない感謝を口にすると、上着のボタンをはめながら玄関に向かった。
その後を、久美子は小走りに追いかけて来た。
「待ってよ! あなたは今、あたしにプロポーズしたんでしょ!?」
彼女は藤臣の左腕に縋りつく。
「プロポーズ? ……なんのことだ」
「パーティで婚約を発表するって、私たちのでしょう?」
「私の、だ」
「他の、愛人とは手を切るって」
久美子の声が途切れ、指先はワナワナと震え出す。