十八歳の花嫁
「すべての、と言っただろう? 君も了承してくれたじゃないか」
「ふざけないでっ! こんな……こんな、人をバカにしたやり方……訴えてやるっ!」
予想どおり、久美子は金切り声で叫び始めた。
「わずか一年半の愛人関係で、どれほどの慰謝料が取れると思ってるんだ?」
「婚約者も同然よ! 週刊誌に『結婚秒読み』とか書かれても、あなたは否定しなかったじゃない」
「肯定もしてない。君との付き合いはマスコミを利用した宣伝効果の意味もあった。このマンションは私の誠意だ。法的手段に訴えると言うなら、好きにすればいい。だが、君はすでに不相応なものを手にしている。弁護士にでも相談するんだな」
藤臣は抑揚もつけず、一気に言い放った。
そのまま久美子の手を振り払い、靴を履く。
「許さないわ……こんな急に、ついこの間だって、あたしを呼び出して抱いたくせに!」
「宣伝費以上の金を、君にはつぎ込んでやったんだ。言われるままに脚を開くくらい、当然だろう?」
小馬鹿にした藤臣の言葉に、久美子は真っ赤になって手を振り上げた。
だが、その手は彼の頬に触れる前に押さえられる。
「離しなさいよ! 引っ叩いてやるわ!」
「女に叩かれる趣味はない。それと、女には手を上げない主義だ。ありがたく思え」
久美子は手を放された瞬間、玄関に座り込んだ。
そんな元愛人には一瞥もくれず、藤臣はマンションを後にしたのだった。